バーデン市劇場カルメン@びわ湖ホール

先日の一悶着も二悶着もあったカルメンと異なり、ひっそりあっさり開催された引越し公演カルメンがありました。あ、私はボローニャカルメンは行ってないんですけどね。評判を聞くに、清教徒には絶妙と感じたドライ味のあるオケがカルメンには合わなかったとか。いやあ想像出来ます。

本日はびわ湖ホールでは初めての4階サイド席に収まりました。上昇音がキラキラしててオケを聴く場所としてはグッド。歌手の声もよく届きます。視界は、背もたれにもたれた状態では半分近く隠れますが、手すりにもたれるように乗り出せば殆ど全部見えます。この高さまで来ると乗り出しても後ろの人の視界を遮ることを気にしなくてよいので、中途半端な位置で後ろの人を気にしながら観るより気が楽かもしれません。一番舞台寄りのエリアだったので視覚的に遠いとも思いませんでした。手すりに体重を預けた体勢を長時間続けても平気な人にはお薦め出来る場所です。

さて、カルメンは超有名作品の割にこれまで縁が無くて、はじめての体験です。予習もゼロでしたが、有名なアリアや旋律がいっぱいで、全然はじめてな感じがしません。

序曲段階でオケは、ざっと数えたところ28名。序曲などのオケだけの部分が、オケコンで聴いて感心するような種類の演奏ではありませんでしたが*1、めちゃくちゃ悪いということではなくオペラの伴奏としては仕方ないんじゃないでしょうか。歌のサポートに廻るところではバイオリンやファゴットなど特定セクション単位でよい瞬間もあった。

演出は極めてオーソドックス。セットは国内20会場を日替わりで廻るという事情もあってか、スチロールボードに絵を描いた感そのままで安っぽい気もいたしますが、チケット代が手頃なので、このままで充分です。衣装も、豪華さはありませんが、これぞカルメンの世界です。演技などもとてもオーソドックス。


今日はカルメンが実に良くてですねえ。マイラム・ソコローヴァというロシア人メゾで、こちらのブログで知ったのですが、当初アナウンスされていたキャストとは違う人だそうです。何がいいって、声質がドンピシャ!ロシア系のメゾの深味の入った心地良い声質ながら、ドスを効かせるとピッタリで、本当にカルメンのイメージそのもの。ソプラノっぽさが全く無く、カルメンは初鑑賞ながらアリアだけは耳にすることが多いのですが、有名メゾが歌ってもソプラノっぽくなっている場合が本当に多いと思うのですが、今回は、この役がメゾのためのものなのだということを(そういう声で歌うとまさにこの役が生きるということを)実感しました。

また体型が、メリハリボディに豊満なお胸が素敵で、ついついオペラグラスがそこに集中してしまいました。お顔もパーツが大きくて黒髪が合うので(まあ元の髪色ですから)、そして厚ぼったい唇でブスっとした生意気そうな表情が実にハマるお顔立ちで、カルメンをやるためにうまれて来たような外観です。

いやー。この方が出てきたときは私は本当に吃驚してですねえ。ハバネラでは、詞の内容もはじめてまともに注意して聴いたのでありますが、心底カルメンに共感してしまいました。「つれない人が好き」には激しく同意であります*2。まあ、私の共感する女性キャラって大抵エキセントリックな変人が多いのでアレですが*3。しかし歌が良くないと絶対これはないから、それだけ歌唱が良かったということで。YouTubeに彼女のハバネラがあります。
http://www.youtube.com/watch?v=SY4TPsHBdF8


カルメン以上に良かったのがミカエラ役のニコラ・プロクシュ・マルティニク。歌の表情がうまい。必死に訴える表情がミカエラにぴったり。歌でこれが出来るのはかなりすごい。てっきり超ベテランだと思ったのに、これからの人みたいです。いい瞬間に立ち会えたのかもしれません。カルメンの彼女が、テクでは「ああ、もうちょっと滑らかに転がせたらなあ」と思う箇所がなくもないのに対し、この人の安定感は素晴らしい。殆どこの時点で完璧です*4

今回のこの公演は「オーディションによって選ばれた気鋭の歌手による情熱の歌声でお届けする」そうで、若手の起用がテーマみたいです。いいものを聴かせて頂きました。


一方、女声陣の充実に対してダメダメなのが男声陣でありました。まずエスカミーリョ。なんだその分かってなさは。エスカミーリョの存在そのものも、与えられた歌も、ビッグウェーブが無いといけないと思うのですが、それが全く無い。ひとくさり歌って、最後にとってつけたように引き伸ばしをやるだけ。なんじゃそりゃー(怒)。闘牛士の押し出しまったくゼロ。また、この人は歌詞を分かって歌ってんのかね?と思わせることしばし。全然歌の起伏と合ってないんですけど。非ネイティブ歌手にネックになりがちな単語単位の起伏じゃなくて、文章単位で分かってないっぽい。あと舞台姿が貧弱なんだよなあ。上背もあるのになんでかね。腰から下が貧弱なんだよな。

ところが、ホセと2人のシーンではこのエスカミーリョがマシに思えてしまうくらいダメダメなのがホセ。本日の公演ではホセは嫌な奴にしか思えませんでした。登場して一声発した瞬間に「カルメン逃げてー!」「ミカエラ逃げてー!」と思ってしまった。なんつうかまず、声が全く伸びない。響かない。声量控えめな歌手にかなり寛容な自覚のある私すらこの人は許容範囲外でした。いや私の小声贔屓は、歌唱の細部までの完成度が高いことを優先するうえの、完成度>>>>(超えられない壁)>>>>デカ声という優先順位ゆえの贔屓であって、芸がダメな人はダメなんだってば。しかしまあ風邪だったんじゃないの。風邪を押して無理して歌ってるような苦しさともどかしさがあった。別にアナウンスとかあったわけじゃないけど。

あと合唱。出だしは良くて期待出来ると思ったのですが、全体を通すとそうでもなかったかな?薄くなると粗が目立って、厚くなると悪くないかも。最初から最後まで通して完成度が高い状態を維持する集中力はないようだ。

全体としては、前半の引き込みが良くて、後になるほど間延びしてしまった感じがあったなあ。4幕の演技などは、見ないで音だけ聴いて想像しておいた方が良いかもと思ってしまった。

まあオペレッタの劇場みたいだし、細部までどうこう言うのが野暮ってもんでしょう。チケット代も安いし、若い才能にも合えるし、来年も同日に来るそうなので、私はまた行くかな。

ところでチラシのキャストから変更云々て聞いて、以前の発表どうだったかなと思って調べたら、そもそもロクに発表されてなかったんですね。ダブルキャストの名前はあって、でも誰がどの日に歌うかは明らかになってなくて、そのダブル以外の人が歌ってもアナウンスや貼り紙も無し。それでいいんじゃないですかね。

ウィーンの森Buehne バーデン市劇場「カルメン
2011年9月23日(土・祝)びわ湖ホール
指揮:クリスティアン・ポーラック
演出監督:ルチア・メシュヴィッツ
管弦楽:モーツアルティアーデ管弦楽団
合唱:Buhneバーデン市劇場合唱団
曲目:ビゼー:「カルメン」(仏語:全4幕、日本語字幕付)

ドン ホセ:オイジェネー・アーメスマン Eugene Amesmann
カルメン:マイラム・ソコローヴァ Mayram Sokolova
エスカミーリョ:アドリアン・マルカン Adrian Marcan
カエラ:ニコラ・プロクシュ・マルティニク Nicola Proksch-Martinik

*1:最近贅沢になっていて、ついそのレベルの演奏を当然視していましたが、オペラのオケでそれは当然ではないのでした。

*2:まあ私に好かれたって蚊ほども危険はないのでそこは違いますが。いやストーカー化するので神経の繊細な人にとっては危険かも?

*3:ブリュンヒルデとかね。

*4:今日惜しかったポイントは、ホセと一緒に出てくるシーンが多いのでホセのせいでシーンが盛り下がってしまったことだけでした。