ローエングリン@バイエルン国立歌劇場

聴いて参りました、噂の大工さんローエングリン。良かったです。これから観る予定の方は、「良かった」だけ読んで、残りは鑑賞後に読むことをお薦めします。

さて、まず演出は、一部部分的に面白いけど、だからどーした?感が強い。奥が深い症候群の人が好きそうな頭でっかち系。本国では毎年やってて同じ背景に飽き飽きしてるからこういうのもアリなんでしょう。前半合唱をずっと工事現場の砂利やコンクリートを運ぶコンベヤ兼足場の上で歌わせるのは音響的にイマイチだと思った。舞台奥の上方だから、全然聴こえて来ないし、なんだか音がボヤケてしまってよく分からなかった。ちなみに陣取ったのは3階サイド。NHKホールは遠い遠いと聞いてたけど、そんなに遠いとも思わなかった*1

オケの音は、手堅いのかもしれないけど、なんだか情緒がないなあと思った。ホールのせいかこのオケの音色なのか百人に及ぶという団員来日拒否の影響か指揮のせいか分からんけど。ケント・ナガノはそんなに馴染みがあるわけじゃないけど、唯一持ってるオフィシャル録音DVDの「ベルリン・オペラ・ナイト」を観たとき、「ガラでこんなに生き生きとした演奏が出来るんだ!」と思って以来の好印象があったんだけどなあ。合唱も、なんつうか、情緒がないんだよな。エモーシャナルさもないし。ま、でも、全体には手堅いんだと思います。私は面白味の部分を求め過ぎで、その辺は人の好き好きの領域かと。


そんで、今日は、やぱしボータが良かったです。まず出てきただけで笑っちゃう。ダメだ、そこは笑うとこじゃない(肩がピクピク)。ボータの 容積 存在感がすごいので、持ってる白鳥が霞んでます。で、歌ったら、やっぱいいな。細部もいいし。話題のTシャツはどうなったんだろうと注目したんだけど、あんだけ身幅の容積があると襟が付いてようがボタンが付いてようが、なんか付いてるものが小さすぎてデザイン違うものに見えるので、もうどうでもよくないですか。そんで、一幕後の休憩して帰って来たら、二幕がはじまる前に出演者のみなさん既に大工仕事をしてるわけですよ。おおー!ボータがハケ持ってペンキ塗っとるー!ハケが小さくて鉛筆のようだ。なんか可愛い。次に場面が変わると、現場事務所の中でコテンとなって寝てるボータ。おおー!なんかアザラシが転がっとる!可愛い!ちなみにこのブログでは、人間が人間離れすると、生々しくなくて可愛いと言われてチヤホヤされるルールになっております。でも2009年のスカラ座で見たときより痩せたと思いました。あんときは全身球体だったけど、今はせいぜい上半身球体だし。しまった、ボータの外見ネタだけで長く書き過ぎた。

マイヤー様。実は私、これまであまりこの方分からなかったんですよ。でもみんな素晴らしいと言うのでこの機会に分かってやろうと思ってて、それはそれで楽しみにしてたんです。で、まずは思ったのは、佇まいが美人ですねえ。そんで、2幕の泣き落とし→不信の植え付けに至るとこの表現が素晴らしかったです。予想してたより「強く」ないんですよね。でも妖艶でゾクゾクするような色気がある。エルザじゃないけど、「あなたがそんな姿をしてるなんて・・・」って本気で思っちゃいました。こりゃあすごいカリスマだと思いました。

エルザのマギーさんは私がよく聴く録音のメンバーなので馴染みはいっぱいあったのですが、録音でも気になる癖が実演聴いたらもっと気になるなーと思ってしまいました。あとこの方、表現はどっちかというと一本調子というか大根じゃないですか。そこがなあ。

ハインリヒ王と伝令とテルラムントは弱い・・・というか平坦と思った。ドイツ系の演奏ってこういう人がよく出てくるから私は苦手。たぶん私の方が鑑賞ポイントを分かってないんだと思いますけどね。

しかしテルラムントの人は違うところで楽しませてくれました。あなた実はオペラ歌手じゃないでしょう!どうしてもおざなりになりがちなオペラの戦闘シーンですが、1幕の戦闘シーンが、なかなか本格的な殺陣が付いてまして、テルラムントが全力で向かって行ってローエングリンが軽く交わすというコンセプトなんですが、というわけで主にテルラムントの方に運動量もセンスも要求されるわけですが、これが、とてもオペラ歌手とは思えない動き。最後なんて側転してましたよ!しかも勢い付けてソロでやるわけじゃなくて、剣を持って向かって行って、剣を払われ崩れた体勢から側転に入るわけです。只者じゃありません。きっと副業にデパートの屋上のヒーローショーをしているものと思われます。3幕の殺されるとこの勢いも只者じゃなかった。

というわけで、歌以外に楽しませてくれた度: ボータ5、テルラムント5、マイヤー様4 という本日の鑑賞でした。


しまった、これで終わるとギャグになってしまう。真面目な話、いつも馴染んでるローエングリンアナセンとインガ・ニールセンの組合せですから、やっぱ3幕のエルザとローエングリンが2人になるシーンは記憶の方が臨場感溢れてたりして、2幕まではまあ快調に観てて、3幕のそのシーンでは、やっぱり仕方無いか・・・と思っちゃったりして、ボータはミクロにはすごく丁寧で正確でよいんだけど、マクロの幕を跨いだ大きな変化を表現するとこが課題かもなんて思ってしまいました。

しかしその後に大どんでん返しがありまして、ローエングリンの名乗りの歌はやっぱ良くて、そしたら、その後、白鳥に向かって「お前に来させたくなかった」というところでなんか泣けましてねえ。その後エルザに「せめて一年そばにいてあげたかった」というところまで。テノールで泣いたってのははじめてじゃないかな*2

というわけで、なかなか得がたい体験になったこの日の鑑賞でございました。


ここで終わるといい感じなんですが、蛇足ですが、前日のロベルト・デヴェリューもこの日も、終幕には大いに胸に来て終わったんですが、会場を後にしたら何かあっさりしてて。首をひねりながら帰りました。ワーグナー聴くと、胸に重いこっくりしたものが残って、なかなか消えないもんなんですけどね。あの遅効性はオケと大いに関係してると思います。これがバイエルンの特性なのでしょうか、それとも今年の事情のせいでしょうか。

2011年9月29日(木)16:00〜 NHKホール
バイエルン国立歌劇場来日公演「ローエングリン
指揮:ケント・ナガノ
演出:リチャード・ジョーンズ
ハインリッヒ王:クリスティン・ジークムントソン
ローエングリンヨハン・ボータ
エルザ・フォン・ブラバント:エミリー・マギー
フリードリヒ・フォン・テルラムント伯爵:エフゲニー・ニキーチン
オルトルート:ワルトラウト・マイヤー
王の伝令:マーティン・ガントナー
ブラバントの貴族:
フランチェスコ・ペトロッツィ、ケネス・ロバーソン、ペーター・マザラン、タレク・ナズミ
4人の小姓:バイエルン国立歌劇場合唱団ソリスト
バイエルン国立管弦楽団バイエルン国立歌劇場合唱団

*1:もっとも私は超巨大ホールや富士山麓でやるロックコンサートみたいな、歌手の姿は肉眼で本人だと確認出来ないくらいにしか見えなくて、隣の巨大モニターで見るのが前提みたいな状態を想定してて、どこのホール行っても「覚悟してたのより全然近いじゃん」と思ってるだけな気がしてきた。まあ、どこ行っても満足出来るお安い人間で良かったということで。

*2:あ、アナセンは別カウントで。あの人はテノールじゃなくて独自ジャンルだから。