国立モスクワ合唱団@兵庫芸文センター

面白かった!

今日は3階のサイドの一番舞台寄りの座席に収まりました。これまでサイド席に陣取ったことはあるものの、一番舞台寄りは初体験です。このホールののサイド席は舞台に向かって斜めに椅子が並ぶタイプなのですが、一番舞台寄りに座ると視覚的にはちょっと面白くて、他の客席の存在を全く感じなくなって、演奏者と自分だけがその場にいる錯覚に陥ります。見切れは奥に行くほど少なくなりますから舞台からほどよく離れた席を選びがちですが、一番舞台寄りに限っては、この錯覚の効果が面白いと思いました。この場所でオペラを観たいものです。

さて、パフォーマンスの話に行きたいところですが、その前に言っておかなきゃいけないことが。みなさまご存知の通り私の日常のBGMはDRのネットラジオでして、デンマークは合唱のレベルがめちゃ高いんですよ〜*1。DKTのコーラスは完璧だし、DRのヴォーカルアンサンブルはもちろん、DRの名前が付いた各種合唱団*2も地方の合唱団も、当たり前のようにレベルが高い。完璧プラス創造的な音楽性があって当然という世界です。もともと北欧は合唱文化がとても厚いしね。

さて、長い言い訳でした。そんなわけで、今日はどうも太く、素朴で、不揃いな部分も耳につき・・・という印象になってしまいました。ところがね〜、意外や意外(と言っては失礼ですが)全く不満じゃなかったんです。このブログの鑑賞記なんかで不満を言ってるときのナンダカナァとも違う。素朴で野太く、やや不揃いな、洗練されていない感じそのものが、曲目も含めてトータルで合ってた/しっくり来たってことなんでしょうね。今日の収穫としては、これに尽きるなーと。合唱の入りとかあんま完璧に合いすぎると、なんというか、人間離れしちゃうしね。ちなみに見た目にも素朴で、日本人から見ても二昔前のような、ロシアはいまだに社会主義ナンダネー的なものがありました。

曲目は、一部この旋律聞いたことあるような?って瞬間があるものの、殆どはじめて聴くものばかり。元々合唱曲じゃない曲を編曲したものが多いのか、ソリストをメインにして、合唱が数節歌うものの、後はハミングで伴奏してるってパターンが多くて、これはこれで面白かったです。ハミングなのに何故か妙に迫力があるんですもん。基本的にアカペラで、半分弱くらいピアノ伴奏が入るという形式。

2011/11/18(金)19:00 兵庫県立芸術文化センター 大ホール
国立モスクワ合唱団 ウラディーミル・ミーニン指揮


合唱のためのコンチェルトより「哀歌」(スヴィリードフ)
ああ, 私の庭よ(ロシア民謡
明るい月が輝いている(ロシア民謡
カチューシャ(ブランテル)
単調に鐘が鳴る(ロシア民謡?)
誰かの馬がいるのか(ウクライナ民謡)
アムール河の波(古いロシアワルツ)
ターニャ・タニューシャ(ロシア民謡?)
鶴(ロシア民謡?)
若い私は夕暮れに(ロシア民謡?)
カリンカロシア民謡


お月様通り過ぎた(ロシアのクリスマス・キャロル
トロイカロシア民謡
おお, ナスターシア(ロシア民謡
風はなかった(ロシア民謡
12人の盗賊
黒い瞳(ロシアの古いロマンス)
ステンカ・ラージン(ロシア民謡
行商人(ロシア民謡

アンコール
浜辺の歌(成田為三)
若者たちよ, 馬の鞍をはずせ(ウクライナ民謡)

導入の哀歌は、311震災の犠牲者に捧げるということでしたが、なんだかド迫力の低音がぶつかって来て、こんなん来たら起きちゃうよ〜って感想でした(ごめんなさい)。そっから前半は、前述の素朴で野太いスタイルが目新しくて気をとられていたのと、どうも配られたプログラムと実際の演奏が食い違っているらしく(上に書いたのは終了後に張り出された演奏順のプログラム)どの曲がどうって把握し難かったのと、後半にインパクトがあったせいで、後半を聴いているうちにすっかり忘れてしまったので言及出来ません。はい。

後半が面白くて、照明を落とした会場にコーラスが手にキャンドルを持って登場してクリスマス・キャロルを歌うという趣向から始まり、「おお, アナスタシア」からノって来て会場は歌謡ショーみたいな雰囲気に盛り上がりました(ま、そういう曲調ですから)*3

次の「風はなかった」がなんかすごくて、メゾのソロなのだが、風はなかったと言いつつ荒野の風のような曲で、ひどく単調になりかねない異様に長いレガートのような高音部が続き、その間に少し装飾的な中低音(と言ってもロシアの装飾だからなんか太くて重いのだけど)がひとくさり入るという構成の曲で、なんというか、今まで知っている歌唱の表情と全く違った意味で表情が付けられるのだなあというカルチャーショック的なインパクトが物凄かった。特にあの異様に長いレガートの部分が、あんなに単調でありながら雄弁でもあるというのが、ものすごいショックで新鮮な驚きだった。だたっ広い荒野の真ん中で、ずっと「あーーーー」って言ってるみたいなのに不思議な表情があるんだもの。ちなみにソリストはスヴェトラーナ・ニコラエヴァというメゾでした。この曲、録音聴きたいので、どなたか録音の存在を知っているとか、あるいは原曲の表記が分かったら自分で探しますので、ロシア民謡「風はなかった」の原曲表記をご存知の方、コメントくださいませ。ちなみにプログラムによると「昔の結婚式で歌われたもので、他家へ嫁ぐ娘の不安や、娘と別れる両親の悲しみなどを表現する、負の祝い歌」だそうです。それもまたすごい。いろいろすごいです。世界は広い。

続いての「黒い瞳」も大音量で結構ウケていた気がするが、私的には「風はなかった」に呆気に取られていてよく覚えてない。続く「ステンカ・ラージン」にて、噂には聞いていたロシアン・バスの超低音を、はじめて生で体験しました。うーん、地を這うバスだ。なんか人間技じゃない(笑)。

アンコールは懐かしの浜辺の歌でした。1番では全く気が付かずてっきりロシア語歌詞を歌ってると思ったのですが、2番でやっと「も、もしやこれは日本語なのか」と思うに至りました。しかも2番と言いつつ歌詞は1番を2回繰り返してなかったか。どなたか聴いてて分かったら教えてくださいね。もう一曲勇ましい曲調の「若者たちよ, 馬の鞍をはずせ」をやっておしまいでした。楽しかった。

しかし終わって思ったけど、このプログラムには芸文の大ホール(2005席)は大き過ぎじゃないかなー。よく聴こえるけど、いまひとつのところで、なんか遠いし。もう一回り小さい千五百席くらいのホールがいいなあ。とりあえず自分サイドで出来ることとしては、こういうプログラムでは警戒して、チケットは2階サイドまでにしておくべきかも。私的にはオペラだと3階席の舞台寄りサイドはむしろOKなのだが、それでも2階サイドになると全然臨場感が違うし。4階でオペラはサイドでも駄目だった。聴こえないことはないんだけど親密じゃない*4。以後のチケット取りの参考にメモ。上階サイドはうまく決まる箱ではめっちゃいいんだけど、そこがいい箱とそうでない箱ってあるもんですね。

*1:これに馴染んでると殆どのコーラスがナンダカナァですもん。

*2:色んな団があり過ぎて、その全貌は私にも分かりません。

*3:ちなみに私は、このナスターシアのソリストの人が、自分の出番の前にコーラスのメンバーの影で何度も十字を切るのを上方の座席から目撃してしまった。ああいうときには本当にああするもんなのねーという意味で興味深かった。

*4:そもそもそんな上階の安席を買って親密も何もないと思うのだが、東京文化会館びわ湖ホールはこの場所が親密なんだもの。諦めも悪くなるってもんです。