ドン・ジョバンニ@びわ湖ホール

まあまあ面白く観れましたが、最近びわ湖ホールの自主公演に対する私の期待は高く高く瑞雲たなびく山頂に突入しているので、総合評価としては中くらいかな?東京の二期会、ライン・ドイツ・オペラとの共同制作とのこと。

まず演出ですが、東京の公演が先にあって、そっちの評判がちらほらと耳に入っていたので、大幅な読替タイプの演出だということは分かっていて最初からそのつもりで観はじめました。一幕は完全によくある独りよがりのダメ演出だと思ったし、二幕も途中まではそう思ってました。関西が最後かと思うのでネタバレしてしまいますが、ツェルリーナとマゼットがドン・ジョバンニの世界に紛れ込んだデート中の現代カップルとして演出されてまして、これの意義が全然ないし、他にも色々設定と異なることをやろうとはするものの読替は苦しいし説得力ないしで、しょうもな、と思って観てました。

例えばツェルリーナ達は最初から立ち会っててジョバンニが悪事を働くところをずっと目撃してるわけです。で、カタログアリアも聞いてて、アリアの中に登場する女達の可視化である白い下着じみた衣装で表情もどこか人形じみた女達が、次のシーンではそのまま村人になって結婚式のシーンがはじまるのですが、ここなんか全然つながってない。なんであれを目撃してた現代カップルがここで結婚式を挙げる村人の振りをしなきゃいけないのか。マゼットが「おい、お前行けよ」みたいな感じで押し付け合うゼスチャーをするので、なんか成りすましをしなきゃいけないシチュエーションという設定なんだろーなーと思って観るものの、舞台としては全く説明不足。演出家の頭のなかではたぶんこんなことになってるんだろうけど表現出来てないんだろーなーと観る方が頭ン中で補う状態。その後の「お手をどうぞ」でツェルリーナがついて行きそうになるのは、全くワケが分からない。

ドンナ・アンナも、彼女は終始言動不一致の人物として扱われてて、アンナがオッターヴィオに見知らぬ男に無理強いされたと事の次第を語っているところでは、背景の額の中でアンナが服を一枚ずつ脱いでジョバンニを誘ったシーンが演じられたり、ジョバンニを憎み復讐を誓うシーンでは、口ではそう言いながらジョバンニと性的なゼスチャーで絡んでしまったりと、完全に言動不一致の扱い。エルヴィーラも、ジョバンニに指示を受けて、ジョバンニはそこにいると分かっているのに、ジョバンニの振りをしたレポレロと出かけるという演出*1。かなりワケ分からず、必然性も狙いも分からず、あのジョバンニの姿は本物のエルヴィーラが認識しているジョバンニなのか、それともエルヴィーラの心象風景の中のジョバンニでもあるのかと、客の方が深読みをはじめる始末。後者だったと言い張りたいとしても、舞台としては表現不足でしょうねえ。こんな感じなので、リブレットとの矛盾は全くひどいです。


ところがこの演出、なんだか二幕の後半で急に面白くなったんですよね。きっかけはマゼットがレポレロに化けたジョバンニに暴力をふるわれる場面。暴力と言っても、リブレット通りの殴る蹴るではなく、何故か服を脱がされてジョバンニが馬乗りになって圧し掛かっているところにツェルリーナが入って来て「何事?」と言うわけですが、視覚的にはまさに何事?な事態です。そして放心のマゼットをツェルリーナが慰めると。ここはリブレットが本来描いている場面よりも、ある意味字面に合ったシチュエーションだと感じました。

ところで書き忘れてましたが、この演出、なんか知らんけどヴィヌス様の洞窟の紗幕を使うのです。一幕で使っている段階では関連が分からず、単に世界観に合ってるから今度の大道具を使いまわしなのかなーくらいに思ってたのですが、このヴィヌス様が大量登場するのが二幕のオッターヴィオのアリアのとき。言動不一致だったりジョバンニの言動に手を貸してしまったりの女達と違って彼だけはリブレット通りの直情馬鹿として描かれているのですが、そんなオッターヴィオの背景にジョバンニが現れて、背景の傾いた額縁が幾重にもなったセットにヴィヌス様の描かれたカーテンを引いていきます。ちなみに洞窟の前で半身を起こした見返り姿の画です。どんどん舞台上はヴィヌス様で埋め尽くされて行き、オッターヴィオ以外の人物達は、そのヴィヌス様に幻惑されている様子です。アリアが終わる頃には、正気のままのオッターヴィオと、すっかりヴィヌス様に染められてしまった一行が。

そしてジョバンニの晩餐の場面では、食事とは、ジョバンニの作り上げたヴィヌス様の世界に幻惑されて白い花嫁姿とも下着姿とも見える姿になって飛び込んで来た彼らを食すというわけです。ちなみにレポレロも味見します(笑)。面白いのは、マゼットも飛び込んで来ることです。そうか、さっきので目覚めちゃったのかあ。

続く石像のシーンがたぶん変わってて、私はジョバンニの演出そんなにいくつも知ってるわけじゃありませんが、しかしこのシーンはマシーンを使ったり照明を使ったりスモークを炊いたり本物の火を使ったりと、そこは演出の見せ場的シーンだと思うのですが、しかしこの演出では、そういうのは何もなく石造が普通に衣装着て歩いてくるわけです。ある意味セットで驚かされるよりも吃驚しました。衣装は派手々々赤と青で閻魔大王様風味です。これ共同制作だからドイツでもかけたんだろうけど、果たして通じたのだろうか。そして服を脱いで(またか)ジョバンニに刺された傷を見せる石像。これは新し過ぎる。大体死んでるのにそんな生々しいことすんなって。

うーむ。地獄落ちはジョバンニがコロッと舞台の下に落ちただけ。ちなみに音楽もあっけなかった。そいで、石像がいなくなると、一同この場を目撃していたので、マゼットカップルは下着姿から服を着て元の生活に戻ろうと言い、エルヴィーラは戻る気無し、アンナもオッターヴィオに服を着ろと促されるのですが、躊躇っているところにジョバンニの姿が戻ってくると「せめて一年」と着る気無し、ジョバンニが各々に影響を及ぼし始め、せっかく服を着始めたマゼット達も下着姿に戻ってヴィヌス様世界の住民に逆戻り。これでカタログアリアで出てきて以後舞台のどこかしらにずっといた惚けた表情の白い下着じみた衣装の仲間が増えて終わりというわけです。

以外と演出の説明だけで長くなってしまったので、総括と音楽のレポは、また明日→書きました

http://www.biwako-hall.or.jp/event/detail.php?c=10200272
2011年12月04日(日) 開場:13:15 開演:14:00 びわ湖ホール
沼尻竜典オペラセレクション
モーツァルト作曲 歌劇『ドン・ジョヴァンニ』(全2幕)
イタリア語上演・日本語字幕付
指揮:沼尻竜典
演出:カロリーネ・グルーバー

ドン・ジョヴァンニ:黒田 博
騎士長:長谷川 顯
ドンナ・アンナ:増田のり子
ドン・オッターヴィオ:望月哲也
ドンナ・エルヴィーラ:佐々木典子
レポレッロ:久保和範
マゼット:北川辰彦
ツェルリーナ:嘉目真木子
合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル、二期会合唱団
管弦楽:トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズ

*1:これはレポレロと腕を組んででかけようとするのに、歌でジョバンニに呼びかけるところでは、ジョバンニの方を向いて歌うという方法で表現される。