森は生きている@こんにゃく座

行きの電車で林光『日本オペラの夢』を読みながら八尾市に向かう。

ひょんなきっかけで関西のホールを調べることになって以来、大阪の南部には特色のある面白いことをやっているホールが多数あるのを知った。今日の八尾市文化会館プリズムホールは演劇に力を入れているホール。市民演劇の支援も盛んで、サイトを開いた瞬間に目に入るホール助成による演劇公演多数、演劇ワークショップの数々、さらには「バーチャル舞台見積もりシステム」なんて企画群はやたら実践的というかマニアックというか、実際にそういうことに取組んだからこそ見えた必要性に基づいているのだろうなあ、と思わせるものがある。いやこれ、簡単に書いたけどなかなか成立し難いことなんですよ。そういう現場からの必要性があったとして、それを実行まで持って行ける柔軟な環境って、結構ないんですよ。

ホールのハードとしては駅前高層ビル型で、大ホールは千四百席くらい。1階席の段差が控え目で前の人の頭が視界をドンピシャ邪魔する作りだった。2列以上前の人とか、通路を挟んださらに前列の人の頭すら引っ掛かった。客入りに余裕があったので、みんな適当にずれて座って本日のパフォーマンスには支障ありませんでしたが、座高の想定範囲がすごく狭いんでしょうね。色んな体格の人が混在する外国の方が想定体型の幅が広くてストレスになることがなくて、日本だと標準身長の男性しか想定してないんだろうなーと思ういつものパターンです。


前置きが長くなりました。本日は八尾演劇フェスティバルの一環で、オペラシアターこんにゃく座の「森は生きている」。音楽鑑賞というよりは演劇鑑賞の一環として扱われているっぽい。ちなみにチケットは前売1500円。先日こんにゃく座を知った時に、聴きに行けそうな場所で一般公開されている公演がないか探してピックアップしたもの。日本オペラ年鑑で年間オペラ公演数が完全独走トップのこんにゃく座ですが、その殆どは学校の芸術鑑賞公演で関係者のみなので、関西で一般公開というとチャンスは半年に一度くらいです。先日他界した林光への追悼のつもりで見始めました。

第一印象は、こりゃ演劇だ、というもの。オペラだと思っていると、たとえ邦人作曲家による日本語オペラだとしても、それでもずっと演劇寄りです。なにしろ、役者がくるくる動く動く。私は演劇寄りのオペラが好きで、DKTなんかは現代の西洋オペラ界では最も演劇的なポジションであろうと思うのですが、そういうのとは次元が違う視覚とノリの演劇っぽさですね。

で、なんというか、完全に胸声というわけでもないんだろうけど、かなりそっち寄りです。ただ、なんだろう、曲が元々そういう風に作られているからなんだろうけど、これでいいんだって感じでした。胸声っぽいのとよく動くので、印象はミュージカルみたいです。でもミュージカルとオペラの境目が、よく言われるようにマイクを使うか肉声を聞かせるかによるのだとしたら、これは完全にオペラです。伴奏はピアノ一本です。

正直、冒頭の本を読んで期待が先走りし過ぎたこともあり、途中までは、思ってたより(観客である自分が)冷静だなというか、ものすごく引き込まれたというわけでもなかったんです。面白い箇所は色々あったし、自分にとっての新鮮さもあったし、あの歌い方ですっと聞き惚れるような箇所もあるんですけども。

だけどねえ。女王が改心するところで、ポロッと泣けましてねえ。自然に涙がポロリポロリと。それが、中年女がこんなこと言っても気色悪いだけでしょうが、子供のような涙というのか、力が入ってなくて、ただ涙がポロポロと頬を落ちるような種類の。余談ですが、映画とかでよくこういうシーンあるじゃないですか。全然顔が歪んでなくてただ涙が一筋みたいの。私は、昔はあれは嘘だと思ってました。嘘というか、美化の一種で、現実にはないと思ってました。涙というのは、我慢して、我慢して、それでも止め切れなくて顔くしゃくしゃにして、それでも溢れて来るもんであって、それ以外のパターンにリアリティが無かったんですね。なんでこんな話を長々としてるのかというと、まあ照れてるんでしょう。

こういうパターンというのは、私としては、びわ湖ホールの中ホールの魔笛のときだったなあと。あんときはパパパの間中ずっと泣けた。それで、もっとリアルなドラマが描ける散文的な表現形態でこれがあるかというと、ないんですよね。 感情移入して、いわゆる「目頭が熱く」「鼻がツーン」なパターンはあるけど、涙がこぼれて初めて自分が気付くような素直な泣き方ってのとは違う。そこが音楽の力なのかなあ、と思ってます。不思議と、所謂豪華なオペラ公演のときって、こういうのは無いんですよ。うまく入れたときでも、これとは違う。むしろ、小規模の公演とか、アマチュアくさかったりする方が、こういう種類の感情の喚起につながるんです。だから私は小さいオペラが好きです。

冒頭の本の話題に戻って、作曲家の意図したものがあれだとすると、今日の私は、それを確実に受け取ったのでしょう。こういうのって、子供に観て欲しいですね。イマジネーションが掻き立てられるから。掻き立てられるというか涵養されるというか。同時に二人以上の気持ちになったりとか。まあ元々児童文学だし子供向けの演目なんですけども。「森は生きている」は6月にびわ湖ホールでも企画されているので楽しみです。

2012/03/17(土)大阪府八尾市プリズムホール
八尾演劇フェスティバル
オペラ『森は生きている』
オペラシアターこんにゃく座