サロメ@ROH2012 初日 (3)

最近PCトラブルに見舞われていて書いた文章が消えちゃったりしてやる気が・・・。それでも一番書きにくいことを吐き出したので、残りはサクサク行きましょう。

幕が開くと、それはそれは猥雑な風景。タイル貼りの地下室に食肉加工の血でタイルは汚れ、捌いた肉が剥き出しで吊るされ、そこに佇む人物達はなんとも爛れた雰囲気。全裸や、着てる方がまずいよって下着姿の女性の姿。古風なコルセットに下はすっぽんぽん。もちろんヘアまでバッチシ。どんな処理をしてるんだろうとついアンダーヘアを見つめてしまいました*1

この演出は再演でDVD出てるし放送もあったし、ご存知の方も多いと思います。私も放送でうっかり見ちゃったのですが、この再演を観に行く可能性があるから全部は観ないで止めておいたという経験があります。そのときは演出が面白くてつい全部見そうになるのを我慢してなんとか止めたという経緯。でもサロメダンスの手前までは見ちゃったので、今回、新鮮な気分で見れるのかしらと思っていたのですが、心配ナシでした。とにかく幕が開いた瞬間の猥雑なインパクトがすごかった。私は舞台美術にそんなに拘りがある方じゃなくローコスト公演の何もない舞台で満足出来る方ですが、そんでも、この幕が開いた瞬間というのはかなり驚かされたし、一気に作品世界に惹きこまれました。以後は一度見てるってことを全く忘れてしまいました。

ところがところが、2回目にStalls circleの至近距離から観たときはこのインパクトが無くて、なんというのか、もっと詰まんない感じだったんですよ。既に知ってるからというんじゃなくて、風景として、なんか猥雑感が全然感じられなくて、もっと無味乾燥で詰まんない印象になっちゃうの。おそらく1階オーケストラ(前方)とかでも同じ感じだろうと思うのですが、やっぱ舞台を俯瞰する上階はいいなーと思います。

続いて登場人物達が動き出すのだけど、この演出のいいところは人の動かし方が自然で、間が自然で流れるように進むので、その部分で全く引っ掛かる瞬間がなく一気に見れることです。そういえば、前に放送で見たときもそのせいで引き込まれて見ちゃったのでした。

だから、今思い返すと、普段はいろいろ待ち構えていて、一声目がどうこうと細かいことを覚えているのですが、この公演に関しては、全てが自然に流れるようにすっと入っていったので、逆に覚えてないんですよね。だから演技に関しては割と細かくて、特に主要キャストはずっと動き続けてる感じだったかもしれないです。

ナラボーは私は誰で聞いても引っ掛かりがちで不満というか反感を持ちがちなのですが*2、この日はそういう種類の不満は無かったです。良かった良かった。小姓も満足。ちょっとだけ出てくる兵士もOK。不満ポイントに引っ掛からないというのは随分消極的な評価みたいに聞こえますが、かなり貴重なんです。


サロメのデノケですが、先にトータルの印象を言っとくと、私としては今回大変満足してます。姿も細身で、お顔やトータルの雰囲気が、至近距離で見てもサロメ役として違和感がなく、実際にはそんなことある筈ないわけで、歌唱、身のこなし、表情などを含めて表現者としてうまくやっているからだろうと思うのですが*3、オペラで年代的に違和感のないサロメが観れるとは全く期待していなかったので、ちょっと驚きました。初サロメでこれですからラッキーでした。

今回の舞台は、全体として非常にリリカルなアプローチを取っていて、それは一人だけではなくリハの過程で全体の合意としてそうなって行った結果であるように私には思えましたけど、ま、そういうわけで、デノケがいつもこうなのかは分からないのですが、あんまり張り上げることもなく、声の誇示なのか絶叫の連続なのか分からなくなりがちな要素もあるこの役を、そうならずに人物の心情を大切に歌っていて、私には大変好ましいものでした*4


そういうわけでいい感じで流れてきたんですけど、続くヨカナーンがねえ。去年マンチェスターのヴォータンでイングリッドに酷評されたシリンズです。私も出来れば避けたい人だったんですけど、去年は風邪のアナウンス入ってたから、今度はひょっとしたらもっとマシなものが聴けるかもしれない、と良い方向に考えるようにしてたんですけど、やっぱりダメでした。歌に芯が無くダラダラとお経のように続く芸風で、この人は録音の方がよほどマシに聴こえる人で、生で聴くと本当にガッカリします*5。ただ、こういうフラットで上下がない歌手ってアジア圏では積極的に好かれる傾向があることは申し添えておきます。オペラ聴き慣れない人にはフラットな方が聴きやすいんでしょうね。ちょうど今から兵庫で歌うグレムスレイなんかもこのタイプです。シリンズの方がグレムズレイよりはマシかな*6。私は彼のことはミスター・フラットマンと呼んでますから。

でね、私は自他ともに認める腹フェチなわけですが、この演出はヨカナーンが生腹を出すのが腹フェチ的には見所なわけですが、中身がアレだと腹にも全く興味が持てないことが分かりました。どうせならヨハン・ロイター(前回の再演のヨカナーン)で見たかった。ロイターの腹はぷくぷくして懐き甲斐がありそうだ*7

少しはいいことも書こう。シリンズははじめて見たのがコンサートパフォーマンスだったこともあって、髪の毛がチリチリしはじめたおっさんのイメージしかなかったのですが、ヨカナーンの長髪の鬘を付けてたら、見た目は若くサロメが惹かれても可笑しくない風になってました。腹もシェイプしてあった。もっともサロメの物語は、囚人を引っ張り出すんだから、臭くてヒゲボーボーで、元がどんな素材であったとしても、とても十代の女の子が惹かれるようなものではないだろう、などと身も蓋もないことを考えながら、本日はこの辺で。

*1:いや男性だと見る機会も無くは無いのかもしれないけど、女性だと基本機会がないから、実用的な興味が湧くんですってば。←そんなこといちいちカミングアウトせんでよろし。

*2:でも私の反感センサーに引っ掛かるとき、特に女性オーディエンスはうっとりしたりするみたいなんで、私が天邪鬼なだけだろう。

*3:そういうのって舞台の距離間ならではだったりするので、だからDVDになって通用するかは怪しい。

*4:だから前回より悪くなった、と感じたオーディエンスもいたようですが。オペラに大声大会を求めて来る方がいるのは仕方無いですね。もっともこの箱の最上階後方なんかに座ってたら私でもそうなっちゃうかも、と思ってしまうデッドさ加減でしたから、致し方ないところもあるかもしれません。

*5:別に録音がよいわけではないが、生はもっとダメである。

*6:どっちもヴォータンで比較して。

*7:腰にタオル一丁の姿は既にマスカレードで見ています。