納得の魔笛!@広島オペラルネッサンス(1幕)

先日第一印象をレポった広島オペラルネッサンス魔笛ですが、一通り時系列で書いてみたいと思います。

まず会場。満席。ぎっしり。すごい。これは予想してなかった。千三百くらいのホールだけど、完売してても空席ってあるもんなのに、それがない。

序曲開始。オケピの中でものすごいニコニコしながら弾いてるヴァイオリニストが目に入って、度肝を抜かれる。きっと名物団員だと思う(良い意味で)。序曲段階では、うーん、ちと硬いかなって感触のまま次へ。

セットは、やあ君と会うのは何度目だろう?っていう、岩田さん持ち回りの黒い背景の基本セット。この時点では、魔笛にしては暗過ぎるんじゃないのと思ったのだけど、横長の舞台を区切るのに使われているだけで、セットとしては別にアクセントが来るので、全編を通したら気にならなかった。


袖から蛇に追われるタミーノ登場。カジュアルな綿パンに白っぽいコート着用です。おお、現代演出なのか?それは超意外だぞ、と思いきや、この後登場するダーメやらパパゲーノやらは全て魔笛世界の王道っぽいメルヘンな衣装で、どうやら現代から異世界に紛れ込んだ人という設定らしいです。パパゲーノとの会話はちょっと改変されてたのかな、近現代世界の住民がもっと原始的な世界の住民と交わすトンチンカンな会話って感じで、すんなり繋がってました。

そうそう、台詞部分は日本語で、旋律の付いてる部分は原語というチャンポン状態でした。でもこれが一番いいと思います。歌も日本語にしちゃうと、なんか不自然で聞き取りにくいし、でも台詞はダイレクトに分かるのがいいし。今日の面子はみな芝居が達者なので、台詞がダイレクトに分かって本当に良かった。実は隣席に生オペラは始めてという連れがいたのですが、この形式で全く違和感なかったそうです。

音楽的にはここまで硬かったのですが、パパゲーノの鳥刺しのイントロがはじまったところから、滑らかに流れ始めました。パパゲーノ登場した途端にすごい拍手。人気者なんだなあ。野性味のある自由人パパゲーノって感じで、キャラがすごいピッタリ。レンジがあんまり広くないので貼り付き歌唱になりがちな傾向はありますが*1 *2、芸達者で、くるくる変わる表情と演技で、これは人気あるわけだ。なーるほど。

続くダーメの会話あたりで、どうしても3人セットに感じがちなこの辺のキャラが、一人一人が立っていて、たったこれだけの短い間にも一人一人が判別出来ることに気が付きます。なんだろう、この感じ。とても新しい・・・。

タミーノの「なんて美しい絵姿」。今回は藤田さんのタミーノが目当てだったので期待は高いのですが、期待通り半分、外れ半分かな。良かったのは、ちゃんと「鳴る」テノールだったことです。みつなかフォヴァリータのときとは全然違う印象。様式の違いにちゃんと対応してるのは好印象です。ドイツもののテノールで鳴ることを重視するのは、これデンマークの価値観で一般的じゃないかもしれないけど*3、私はすっかりかの国の価値観に毒されているので、ここを押えてくれれば満足です。外れだった部分は、あのときみたいに圧倒的じゃないことですね。もちろん一定水準以上で、その先の話ですが。でもあのときは、何だったんだろう。声が若々しくてボーイッシュなのは、いいですね。そもそもボーイッシュ系統じゃないと安心して聴いてられないから*4

続く夜の女王のアリア。なんだか、雪女みたい。衣装も白いし、黒髪ロングストレートに、ご本人のキャラもたおやかで、なんとも和風っぽい。一般的な夜の女王のイメージとは随分違うと思うのですが、それは物語が続くうちに明らかになります。前半特に気になる音も無くはなかったけど、日本人歌手の夜の女王としては、かなり思い切って歌ってた点が良かったと思います。

ダーメの重唱は、もうちょっとピッタリ合うといいなあと思いつつ、アウフ・ヴィーダーゼーエンと次のシーンへ。


場面変わって、捉われのパミーナ。この方は女優ですねえ。ちょっとON寄り過ぎて、もうちょい抜きというかOFFの要素が勝ってくると言うことないんですが、そんな「あと少し」の点を指摘したくなるくらい出来てます。さっきまで死ぬか生きるか言ってたのに、「恋」の一言が出てくると舞い上がってしまう女の子パミーナが描かれます。声も素直に気持ち良く出るし、いいですねえ。オペラ初心者の連れもとても気に入ったようです。そういう分かりやすい「掴み」的魅力のある歌手です。

ゆったりした布に近い原始的なメルヘンの世界の衣装に対して、3人の童子モーツァルトの時代のかっちりした衣装で現れます。なるほど。たしかにあの童子は何なのかよく分からないけど*5、作者の化身的な存在だと思えば納得だ。妙に納得してしまいました。

タミーノと弁者の会話。なんか、佇まいがめちゃ存在感がある。デカいし。弁者ってあんまし人間を感じさせないもんだけど、なんか、こういう僧院にはいかにもこういう人がいそうって感触。

タミーノが魔笛を吹くところ。ここもいい。魔笛は普通に口に付けて吹き真似。フルートは普通にオケピから聴こえてくる。いかにも魔法って感じに降って来るように聴こえるのもいいと思うんだけど。魔笛って、ここと試練のところしか活躍しないけど、タイトルロールならもっと活躍して欲しいもんだと毎回思いつつ次へ。

モノスタトスと手下が魔法の鈴に踊り出しちゃうところ。会場にくすくす笑いが広がるざわめきが心地良い。鈴を手にとって、嬉しそうに眺めたり翳したり回したりするのが、なんかリアル。その後の台詞に繋がる。強制的に踊らされて、さようなら〜って感じじゃなく、平和な感じがとてもリアル。

ザラストロ登場の音楽が流れて、パミーナの一声。すごいわ、この人。このレンジを一気に。と思うまもなく、ザラストロが・・・ちょっとこのザラストロ、めっちゃいいじゃないの!低いのに高くて、色気すら感じる声。うわあ・・・聴いてて照れちゃう。見た目は、本物の坊主です。こんなにちゃんと「オリエンタルな坊さん」してるザラストロを見たことはありません。

1幕の幕切れでいいなと思ったのが、ザラストロが「この2人を連れて行って試練を受けさせるように」って言った瞬間に、民衆がわっと嬉しそうにするんです。それで、民衆がここまでのことを見ていて2人を好いていて、自分達の仲間になることを歓迎していることが伝わるんですね。同時に、ここが、すごくいい集団であることも伝わって。あれは、2幕の冒頭に繋がるいい演出だと思います。

しまった、長く書き過ぎて、全然書きたいことまで辿り付けていないのに、ここで一段落です。

*1:100出せる人が10〜30くらいをちょろちょろしながら、ときにレンジいっぱい出すというのが私の好みのスタイルなのですが、レンジがあんまし無いと、頻繁に上限に近いところに貼りついちゃうので、それを「貼り付き歌唱」と呼んでます。ちなみに、100出せる人が出せるだけ出しながら貼り付き歌唱すると、日本では豊かな声量とか言われてとてもとてもウケるのですが、私はそれ超苦手なのでした。

*2:話がずれましたが、今回は自分の中の評価高いからここまで書いたわけで、「あとここが」って言い出したらそれはかなり出来てる証拠なので、そこは確認しておきたく。

*3:というのは、ドイツ本国で人気のテノールデンマークでドイツもの歌っても、デンマークじゃ「全然鳴ってない」って言われちゃうのね。

*4:私は異性の色気が苦手な人間。

*5:大人もそうそう行けない世界に入れて道案内出来て、しかもそこで自由に動いてるし。