ボリス予習3/プーシキン

プーシキン「ボリス・ゴドゥノフ」読了時点のメモ。これまでに聞きかじったオペラ版のボリスストーリーを意識しつつ。

ボリス・ゴドゥノフ (岩波文庫)

  • 出だしは、シェイクスピアだなあ。笑っちゃうくらいシェイクスピアだ。
  • 原作では、ボリスが狂うという描写は(少なくとも明示的には)無い。偽ドミトリがモスクワに向かっていることを聞いて動揺する描写と、13年間殺された子供の夢を見ていたと独白する描写がある。ここからボリスの死まではいささか唐突な印象を受ける。
  • ボリスがドミトリを殺したと言う人々はいた→偽ドミトリが現れ、モスクワに向かう→モスクワ入する前にボリスが死ぬ→人々は、ボリスの死によって偽ドミトリの正当性が証明された印象を受ける→その後の偽ドミトリ支持の布石となる、というような作りになっている。
  • 全体に、史実(皇子ドミトリの謎の死と、その後の偽ドミトリ事件)を知っていることを前提に、不可解な事実の影にこのような出来事があったとすれば納得出来るでしょ?というスタンスで描かれた印象を持った。またさらに、極めて個人的な感想として、この件以後ロシアでは度々偽ドミトリ事件が起こるわけだが(そんな何度も騙されるなよー)、偽ドミトリ1世の即位を許してしまった事実に対して、同国人として弁解する意図もあったのかと思った*1
  • しかし、史実を知っていることが前提とはいえ、ボリスの政治自体がどのようなものであったのかという描写がすこしあった方がよいように感じた。それがあると作品単独で読めるものになったのでは*2
  • まあ物事タイミングが重要なんですねえ。しかしボリスって人は間の悪い人ですね。これでボリスの善良な為政者としての描写を足せば、その辺の無情観が出て一般受けしやすい作品になったのではないかと思う次第です。

話は変わりますが、この頃の日本語訳はいいですね。第2幕ボリス登場時の(そして私人として初の)台詞ですが、

どうしたね、クセーニャ?どうしたね、お前?
まだ許婚(いいなずけ)のうちに可哀そうに寡婦(やもめ)だ!
亡くなった婿のことを思って始終お前は泣いている。
ねえお前!運命はわしをそなたの
幸福の施し人とされなかったのだ。

もちろん脳内パペボリス*3に朗読させましたよ。1行目とか4〜5行目とか、きゃああああっ><て感じなんですけど。・・・真面目な文学ネタをやっていたつもりが、結局こういうオチになってしまった・・・

さて次はオペラブックスを読んだら、いろいろと浮かんだ疑問が解けるかなっ。
名作オペラブックス(24)ボリス・ゴドゥノ

*1:この感想は現代的な見方に過ぎるかもしれない。

*2:偉そうです>starboardさん。

*3:何故か日本語朗読が出来る