DKTパルジファル(続)

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さてそういうわけで、大変素晴らしい合唱と共に前にせり出してきたセット、そして血のにじむ包帯に薄汚れたパジャマ姿の男達という、決して美しくないシーンは、ありがちな観念的な現代演出って感じです。そしてティトレル王@ビリエルさんのパートが舞台奥からの影歌で聴こえ、去年のことを思い出しながらダイレクトに聴きたかったー!!と思っているうちに*1、男達はセットからバラバラと降り立って来て、開幕からずっとプロンプターBOXの上辺りにあった、人が乗れるほどの大きさの木箱(聖杯が入っている)を取り囲みます。パルジファルはこの頃、この向こう側には何があるのだろう、この人達はどこから来たのだろう、と言いたげな様子でセットの奥の方に行ってふらふらと向こう側を覗き込んでいます。騎士2人@病院スタッフ姿がデカい釘抜きを持って、さあ開けるぞと構えると、これまたパジャマ姿のアンフォルタス(ただし頭に包帯は無しで地のハゲ・・・もといスキンヘッドのまま)の登場です。アンフォルタスのジョン・ラングレン*2は去年のクルナヴェールに続いて割と大きなロールで2回聴いているのですが、やっぱり今回ももの足りなかった。熱唱しているのだけど伝わって来なくてもどかしいような、私にとっては、そんな感じの人です。


アンフォルタスが抵抗するシーンが一通り終わって聖杯が開けられると、木箱の中からまた木箱、マトリョーシカ方式にどんどん木箱が出て来て、最後は片手で持てるほどの小さな箱になります。最後のご本尊は内側が光っていて、蛍みたいです。ここで聖杯が皆に食事を振舞うわけですが、男達はアンフォルタスの腹のぱっくり開いた傷口に次々と手を突っ込み、手を血だらけにして何かを受け取っている模様です。なるほどあれじゃ傷口も閉じないわー、拒否するわけだ、というシーンが展開されます。アンフォルタスはリブレット上は死にたくて聖杯に触れることに抵抗しているのですが、ここでは傷を癒したくて、つまり、生きたくて抵抗しているように見えます。

そんな聖杯シーンが終わってみんなが向こうに行ってしまうと、パルジファルはグルネマンツに質問されて答えられず追い払われてしまうわけですが、ここで聖杯が「清らかな愚か者・・・」と歌うとセットの床からニョキニョキとお揃い半ズボン姿の、ただし年代は異なる男の子(黙役)が3人出て来てパルジファルの去った方向を指差して幕となります。


演出はあっさりしか書かないつもりだったのに、意外と細かく書いちゃったな。書き出しの頃と釣り合ってませんが、ま、いいか。この演出はたぶん一幕が一番面白くてどうなるんだろうという感じで、後は、意外と予想通り(一幕の印象から予想する通り)だと思います。


二幕は楕円の望遠鏡が閉じた側を見せていて、その口がギザギザのガラス扉風になっていて、SFに出てくる悪の組織の基地っぽい印象です。その上にクリングゾルが乗っていて、槍持って歌うと、その下の望遠鏡の中で裸タイツ着用のクンドリが起き上がって嘆きます。クンドリが閉じ込められ操られていることの視覚化としてはよく出来ています。花の乙女達のソリスト達もワイヤに吊られて望遠鏡の上に登場します。

その手前には何故か囲いの着いたベビーベットに収まったパルジファルが、今度はパジャマ拘束衣ではなく一幕の最後に出て来た男の子達と同じ格好で、ただし半ズボンではなくお揃いの色のサスペンダー付きの長ズボン姿で、もの珍しそうにキョロキョロしています。


ここで一言。さっきは拘束衣で分からなかったけど、アナセンものすごく太った?元々不恰好なお腹の周辺が、さらにあり得ないくらい膨張して、シャツとズボンの境目がモタモタしています。大体サスペンダーでも安定して見えず、お腹が収まらない人なんてアナセンくらいしか知りません*3。元々そんなだったのに、さらに膨張してしまってどうするのか。しかも相変わらず腹ばかり集中して成長していて、一体どうしてそんな太り方が出来るのかと小一時間問い詰めたい。というわけで、最後に会ったときから厚手の腹巻き3枚くらい余計に巻き付けた姿で現れました。終演後に聞いたところ「I'm sorry, sorry. 実際すごく太ったんだ」そうです。なんでこの人は太ったか聞かれて謝ってるのでしょうか。

さらに暴走するトーク。アナセンの半ズボン姿見たかったかって?そんな還暦過ぎの半ズボンって・・・倒錯過ぎて困るではないですか。元々存在まるまる倒錯みたいな人だからなあ。顔の表面のしわとかが年齢なりなのに*4、表情とか動きとか異様に若いんだもん。あれは実に奇妙で倒錯的な光景。実はパルジファルの2回目の公演後に控え室に行ったら丁度着替え中で、ドアから首だけ出して「ハーイ」ってやって、そんときに所謂上は着てて下はパンツ一丁姿を目撃してしまったわけだが*5 *6、脚は普通にツルっとしてるのでOKではないか。それよりアナセンの場合、腹が異様に出てて脚が普通なので、半ズボン部分だけ異様に膨張してその下から棒が出てるみたいな印象になるのではいかと予想。実在するハンプティ・ダンプティ

長々と書きましたが、つまり、見るからに明らかに太ってたんですよ。「正面から見たらなんとか普通体型」をギリギリ保って来た(?)アナセンですが、今回は成長したお腹が横にも行き始めていて、もはやその言い訳も使えなくなりました。

ところでこの幕では「あの若者・・・美しい」というシーンがあるわけですが、そんな腹の出過ぎた不恰好な姿でどうするのかというと、心配ご無用。一幕で出て来たパルジファル・コピーの半ズボン姿の男の子達が一緒に登場して、おもちゃの兵隊相手に勝利してこの台詞に繋がるので、ベビーベットの中の不恰好な物体のことは指しちゃいないのです*7。男の子達はデン人の常で若い間は天使のように美しいし。


こっから花の乙女の誘惑シーンになるわけですが、望遠鏡のセットがぐるんと回転してぱっくり口を開けると、この巨大セットの中が全て真っ赤な艶やかな布によって襞を作りながら内張りされており、粘膜っぽくて淫靡な光景が現れます。考えようによっては相当ヤバい光景ですが、デンマークは性にオープンで積極的に触れたがるので、最近私もなんとも思わなくなってしまいました。しかし、この巨大さはやっぱりヤバいです。「数千人が一緒にこれを聴くの?」的な破廉恥なヤバさがあります。ええとつまりですね、舞台でモロ出しをしようがそういうモティーフが出ようが登場人物がやってる分には、ああそういうシーンなのねで済むのですが、こういう舞台一杯のセットで客席もその一部であるような錯覚にさせるとか、音楽でその感覚に包まれるとなると、客席に当事者性が出てくるところが、数千人でそれを体験するってのが「なんたる破廉恥」だと思う由縁です。


(続く)ここまで機内で書いた文章が発掘出来た分です。

*1:去年のルルのレポ書き上げてないんだけど、ビリエルさんの声だけめっちゃ響いて、一人マイク状態だったんだもん。しかも色気のある声だし。

*2:新国出演経験あり

*3:あそこまで腹が出ると燕尾服の腹部とベストが何故ああいう形になっているのか、その意義がよく分かるのでした。

*4:しかも乾燥してるせいか北欧の人はすごく早いんだよね、こうなるのが。

*5:そんなシチュなのに反射的にニコっとして、次の瞬間「あ・・・」って顔になるアナセン。可愛い。

*6:このエピソードが書きたくて、この段落書きました。

*7:ファンの癖にひどい言い様です。