ラインの黄金@ROH プレミエ

やっとラインの黄金の話。2回観たうちの1サイクルめ。座席はStalls Circleの3列目で一番ステージ寄りのブロックの次のブロックのステージ側の端席です。オーケストラの座席で10〜11列目相当くらい。歌手は近く見えます。視界が上の階の天井で遮られて三角になっていますが、元々演出を見る気はないので気にしない。前回Stalls Circleのステージ寄りで問題になった、オケに近過ぎて悩まされる問題もありません。ステージとオケピからの音のバランスもOK。このエリアで一列前と同じ価格なのは納得行きませんが、ソールド・アウト以降に手配して、このプレミエの日のチケットが入手出来ただけでもヨシとしないと。

いきなり金管が「ぷかぁ〜」っという気のない音を吐いたと思ったけど、その後を思えば、この日が一番気にならなかった。なんだかこのラインだけは面白かったんですよ。私の思い入れだけじゃなくて、アルベリヒとラインの娘達がやんやしてる時点で表情があって面白いし。演出に沿った時系列レポは2回目でやるとして、一日目で印象に残っているところ。

アルベリヒは上で言ったように表情があって面白い。けど、憎たらしいばかりでユーモラスさがないので、どうも物足りなく思ってしまう。

ヴォータンが出てくると、惜しいところと、やっぱりいいなあと思うポイントが同居してると思った。惜しいというのは、前に書いた通りで、役柄の要求にターフェルの特性がぴったり噛み合ってないところ。ヴォータンにしては声質が軽い気もするし。いいなあと思うのは、やっぱり細部を柔らかく決められるところ。結局ラインを通して聴いた後は、やっぱりもっと聴きたいからワルキューレ取っておけば良かったかな、と思ってしまった。

この演出ではヴォータン一味は芸人一座で、堅気じゃない毛皮のコートを羽織ったヴォータン座長と、新旧マドンナのフリッカ・フライア、色違いのド派手なコートを羽織った軽業師のフロー・力自慢のドンナーが出てくる。ローゲは手品師か操り人形師。フリッカは非常に立派で声もよく通り、フライアもなかなか、フローとドンナーはまあこの役ってそういうもんだしね、といったところ。

巨人兄弟は、末端肥大症の体を見世物にしている奇形二人組で、手と足がデカいファーゾルトと、頭(額から上)がデカいファーフナー。ファーゾルトは頑張ってるが声質がこの役に対しては軽いなあと思い、ファーフナーは声に十分な重さがあるだけでなくユーモラスな響きがあってよいバス歌手だと思った。


アチコチから煙が上がって、ローゲ登場。すると、なんだか舞台中が、ローゲに振り回されて、操られはじめてしまう。実は、私はこれまでラインの黄金でそう感じたことはなかった。たしかにリブレット上はその通りの存在なんだけど、声楽的にそういう存在を実現出来た例を知らなかったのだ。むしろ声楽的に出来ていないのに、演出等でせっせとそう見せようとするから、そこは想像力でそうだと思わなければいけないところだと思っていた。

アナセンは本当に不思議な人である。あのボーイッシュなフワフワの声で(わたしはそれをメレンゲ声と呼んでいる)、非常にソフトに、しかしクリスプに歌うのだ。たぶんオペラを音として聴いている客にとっては、彼はぱっとする歌手じゃないんだろう。ところがストーリーの中で彼がやっていることは、なんだかとてつもない。彼の面白いところは、最初から半回転捻ってあるところにある。いつもハズされるのだ。上方に5メートルジャンプ出来る歌手を期待して必死にそっちを見て待ち構えていると(そして、しばしば、その期待は満たされない)、何故か真横7メートルのところに浮いている彼を発見するのだ。彼はすごく特別な人だ。

彼のローゲはフワフワしていて、とらえどころがなく、人を食っている。演出の助けなんか全く必要なく、声楽的にそうなっている。どうしてそうなるのか不思議で仕方が無い。言葉でこう言うのは簡単だけど、声楽的にそうするには、全くどうしたらよいか分からない。私は今回アナセンのローゲを聴くためにここに来たのだけど、来る前には、彼のローゲが一体どうなるのか、さっぱり分からなかった。聴く前には全く想像もつかなかった。彼のロールはこれまで一生懸命な役ばかりだった。ジークフリートもそうだし、トリスタンやタンホイザーは一生懸命の塊だし、ヘロデだって必死な瞬間の塊だし、他のロールも常にそうだった。その熱がアナセンの魅力だった。だからそうでないキャラクターでどうなるのか、あの熱と切り離せない彼のローゲがどうなるのか想像も付かなかった。でも今はこうなるしかない気がする。そういうキャラクターになっていた。

というわけでラインはとても面白かったのだ。続くシーンも面白かったし。2回目のレポでもうちょっと細かい話もします。

Das Rheingold
Monday 24 September 2012, 7.30pm

Conductor Antonio Pappano
Woglinde Nadine Livingston
Wellgunde Kai Ruutel
Flosshilde Harriet Williams
Alberich Wolfgang Koch
Wotan Bryn Terfel
Fricka Sarah Connolly
Freia Ann Petersen
Donner Peter Coleman-Wright
Froh Andrew Rees
Fasolt Iain Paterson
Fafner Eric Halfvarson
Loge Stig Andersen
Mime Gerhard Siegel
Erda Maria Radner
Orchestra Orchestra of the Royal Opera House

Director Keith Warner
Set designs Stefanos Lazaridis
Costume designs Marie-Jeanne Lecca
Lighting design Wolfgang Gobbel
Original Movement Director Claire Glaskin
Video Mic Pool
Video Dick Straker
Associate Set Designer Matthew Deely