トリノ・レージョ劇場ボリス・ゴドゥノフ@NHK

NHKのプレミアムシアターで放送していたボリス・ゴドゥノフと、その続きのサロメを前半だけ見た。ボリスの方が目当てで、なんだかんだ言ってこのオペラが好きなのと、超ビッグネームしか流れない日本でそうでもない劇場の放送は珍しいなと思ったからだ。で、後者に関しては、別にこの公演が特別評判良かったからとかその手の理由じゃなくて、NHKがRAIと並んでクレジットに出てきたので、撮影協力したのだろうなーと思った。なんでここかというと、なんか縁があったんでしょう。まあこういうのってそういうもんだし。

公演については、まあ凡作(凡演?)の部類じゃないでしょうか。タイトルロールが棒読みだったし。オカルトちっくだったりはしない現代的なボリス像でしたが。これだったら、ロイターの方が断然いいよ。声は、ステファン・ミリン的な舌足らず入ったバス声で*1、素材という点では悪くなかったけど、芸としては大根だった。他もあんましなあ。ピーメンはピーメンのくせに精力的過ぎたし。

ちっといいなと思ったのは、シュイスキー役のペーター・ブロンダーの個性。おとぼけリリックとでもいう個性で、この役がテノールである意義みたいなもんを感じさせてくれた。この人は名前覚えておいて、もっと聴いてみたいと思った。アナセンで聴いたことのあるロールで、他の人に不満が出なかった例は実に貴重だ。あと乳母役の人の声が良かった。おかみさんも良かったような気がしたが、雄ガモの歌もないし見せ場がなさ過ぎてよく分かんなかった。ミサイルも個性があって面白いと思ったけど、やっぱ短すぎてよく分かんない。フョードルはずいぶんちっさい子がやけに立派に歌ってたたような気がしたけど、あれは戴冠式の場でボリスの隣にいのとは別の子だったのかな。リブレットでも6年前って言ってるしな。あと歌手では、聖愚者の人はカーテンコールまで目をつぶってるんですが、あの人は本当に全盲の歌手なんですか?

でもなんつーか、全体的に棒読みだし、歌うのに一杯で音楽としてはもどかしい感じが常にあった。ロシア語のせいかな。演出はシンプルな舞台装置にオーソドックスな衣装で、あんまし変なことはやらない。と言いつつ文句はいっぱいあって、クセニアにチック症みたいな動きをずっとさせたりとか(精神的なショックを視覚化したいのかしらんが、クセニアはまともな方がその後の悲劇が際立つのに)、ボリスの部屋にシュイスキーが訪ねてくるところで、ボリスが詰め寄るのに手をかけてたり、さらに同時に舞台で暴力描写を見せたりとかするのは違うんだよなーと思った。なんかちょっとこう、客の知性を馬鹿にしているというか、すごく分かりやすいものしかキャッチしない層を想定した演出なんだろうなあという印象で気分が良くなかった。

演奏は極めて控えめで歌手が主役という感じ。録音の仕方のせいかもしれないけど、両者の音量バランスが、えらいヒストリカル音源みたいな控えめさ加減。演奏の内容はちゃんとしてたと思うけど感心するかというとしない。繊細過ぎてムソルグスキーっぽくないんだ。巡礼の合唱と、あとどこかもう一箇所、本当に聞こえないところがあったんだけど、あれは劇場で聴いてもあのままなんだろうか。

http://pid.nhk.or.jp/pid04/ProgramIntro/Show.do?pkey=201-20110514-10-20718
プレミアムシアター
トリノ・レージョ劇場公演 歌劇「ボリス・ゴドノフ」ムソルグスキー作曲
【出演】
オルリン・アナスタソフ
パヴェル・ズボフ
アレッサンドラ・マリアネルリ
ペーター・ブロンダー
ワシーリー・ラジュク
ウラディーミル・ヴァネーエフ
イアン・ストーリー
ウラディーミル・マトーリン
ルーカ・カサリン
ナジェジダ・セルジュク
エフゲニー・アキモフ

(合唱)トリノ・レージョ劇場合唱団
トリノ・レージョ劇場 および
トリノジュゼッペ・ヴェルディ音楽院児童合唱団
管弦楽トリノ・レージョ劇場管弦楽団
(指揮)ジャナンドレア・ノセダ

  〜イタリア トリノ・レージョ劇場で収録〜   
<収録:2010年10月10日(日)>        
【美術】グラツィアーノ・グレゴリ
【衣装】カルラ・テーティ
【演出】アンドレイ・コンチャロフスキー
【字幕】小林久枝   

*1:だからそういう人に通じないデン歌手ばかり使って説明するのは止めなさいって>自分