音響と座席戦略を反射音で考える

座席と聴こえ方を具体的に書いてくれるので愛読している*1blogより、本日も参考になる記載を紹介します。

http://concertdiary.blog118.fc2.com/blog-entry-626.html
12・11(金)ジェイムズ・デプリースト指揮東京都交響楽団「ジュピター」と「惑星」
横浜みなとみらいホール
このホールの1階15列中央あたりは、低音域があまり聞こえず、第1ヴァイオリンや打楽器の高域の硬い響きに直撃される場所のように思われる。オーケストラの音色が非常に生々しく、かつ鋭く聞こえたのであった。

1階15列中央とは、まさにホールのド真ん中ですね。ここは反射音が最も届きにくいところだと思います。音波には低音は減衰しにくく高音ほど減衰しやすい性質があるので、反射音は低音を強調する性質があります。反射音が届きにくい位置で聴くと相対的に低音成分が少ない、ゆえに反射音込みで聴いている通常の印象に比較して高音が目立つ結果になるのではないかと推測します。また反射音が少ないゆえにクリアで鋭く聴こえる傾向もあると思います。


ついでに前書いたことのフォロー。

http://d.hatena.ne.jp/starboard/20091204

  • 初期反射音は直接音から90msまでの反射音、それ以降は残響音。初期反射音が音響の鍵になる。
  • ということは、初期反射音が多い=>響きが豊か、しかし反射が多く長引き過ぎて残響音が多すぎると音の混濁、さらにはお風呂ホールになる、というような理解でよいだろうか。初期反射音は豊かにしたいが、残響は長引かせたくないと。

この初期反射音の90msec(ミリ秒)というオーダーですが、音速は約340m/sec(15℃)なので、音源から30m先の壁まで到達するのにかかる時間が大体88msecです。30m進むだけで90msecの殆どを占めてしまいました。実際には音が壁に当たってから聴いてる人のところに戻る距離も考慮すると、響きを豊かにする初期反射音が成立するのは結構シビアなことが分かります。

ちょっと試算してみます。仮に1辺30mの立方体のホールを想定すると*2、この立方体の一番端のステージから天井を経由して1階中央席に反射音が届くまで62m=182msecかかり、一方直接音が届くまでにかかる時間は44msecですから、その差は138msecとなり、これは初期反射音の好ましい範囲から外れてしまいます。左右の壁からの反射は多少見込めるかもしれませんが*3、一番重要な天井からの反射音が好ましい範囲に入らないのは大きいと思われます。

一方典型的な壁際の3階席(1階の床から20mの位置とする)を考えてみると、音源からの距離は36m、直接音が届くまでの時間は106msec、天井経由の反射音が届くまでは147msec、その差41msecとなり、これは好ましい範囲になります。左右の壁や後方の壁からの反射音も天井経由と似たようなルートで似たようなタイミングで届くことを考慮すると、こちらの方が音量感があり、響きが豊かと感じることは充分妥当な結果です。

ただし、この説明はホールがちゃんと反射箱として機能することを前提としていますので、反射しない箱の場合は話が全く異なりますのでご注意。


しかし、なんでもかんでもバカの一つ覚えみたいに反射音で説明してると、反射音教と言われてしまいそうだ。つい先日この90msecのことを知ったばかりなのでこれを使って考えてみたかったんですよう。段階的に他の要素も勉強していく予定ですのでご容赦を。

*1:それだけじゃありませんが。

*2:二千人規模の3階席まであるホールは30mで大体合ってると思います。

*3:それもホールの中央だと他の観客に吸収されてあまり期待出来ない。